こんにちは、はんだ付け職人です。
今日は、毎回のはんだ付け講習で受ける質問の中でも
TOP10に入る疑問に対する考察です。
それは・・
「部品のリードは、はんだ付けの前に切る?後に切る?」
というご質問です。
ここで言う部品のリードとは、基板のスルーホールに挿入して
はんだ付けする、抵抗やコンデンサ、ダイオードなどの
アキシャル・ラジアルと呼ばれる部品のリードのことです。
「さて、どっちでしょう?」と
私がお尋ねすると、あなたはどちらだとお答えになるでしょうか?
正解は、「お客様による」です。
「なんやねん!」
「まともに答えろ!」とお叱りを受けそうですが、本当です。
厳密に考えると、はんだ付けが完了した部位には
応力を掛けてはいけません。
というのも、はんだ付け部は時間の経過と共に、徐々に
再結晶化が進み、脆くなっていきます。
(20~30年程度が寿命)
これは、高温になるほど早く進行します。
(はんだが高温に弱いのはこのため)
もうひとつ、再結晶化を進行するのを早めるのが、
はんだ付け部に掛かった応力です。
はんだ付け部に応力を掛けますと、そのときは
大丈夫に見えても、掛かった応力を逃がすために
再結晶化が一気に進みます。
このため、著しく信頼性に欠け、寿命が短くなってしまいます。
はんだ付けの終了した後に、部品リードをニッパで切断すると、
はんだ付け部に応力が掛かります。
(特に切れないニッパでは顕著)
「だったら、後に切ったらダメじゃん!」
ということは、おわかりですね。
でも、ここで考察が必要なのですが、
世の中には、そこまで「高品質を求められないもの」が
多数存在します。
たとえば、家電品。
もちろん、そうでないものもあると思いますが、
「保障期間1年」の製品であれば、多少はんだ付け部の
寿命が短くなろうが、関係ないわけです。
むしろ、工数を削減してコストが安くなる工程で製造したほうが
儲かるわけです。
したがって、家電品に代表されるような一般的な
エレクトロニクス製品の場合、メーカーの作業標準は
はんだ付けの後にリードをカットしていることが多いです。
ところが、産業機器(特定用途エレクトロニクス製品)や
人命にかかわる様な、航空、宇宙、防衛、重電機、鉄道など
(高性能エレクトロニクス製品)においては、
先に部品リードを切っておいてはんだ付けする必要があるわけです。
(信頼性にかかわりますから・・)
後者の分野においては、もし、後にリード切断を行った場合には、
はんだ付け部に掛かった応力を逃がすために、再度はんだ付けを
行ったり、
先にリード切断を行ったことが証明できるように
リードの切断面には、はんだが覆っていることが
求められるなどの基準が設けられているケースもあります。
したがって、
「部品のリードは、はんだ付けの前に切る?後に切る?」
という問いに対する答えは、
お客様が誰に対して、何を製造しているのか?
によって、変わるわけです。
ちなみに、IPC(米国電子回路協会)が制定した
電子回路基板材料の性能に関する規格でも、
クラス1,2,3と分けられて
3段階の品質基準が設けられています。
日本でも同様に運用されています。
では、明るいはんだ付けを!